状況別の解説

労災事故で安全配慮義務違反が認められるのはどんなケース?

労働災害の損害賠償請求において、事業主(会社)側の義務違反ないし落ち度を主張する際の論拠として最も多く用いられるものの一つが、安全配慮義務違反です。

安全配慮義務違反

事業主は労働者に対し、就業場所や使用する機器や器具の管理など、労働者の生命や身体を保護するように配慮し労働者の安全を確保しなければならない義務を負っています。

この事業主の負う義務を安全配慮義務と言います。

会社に安全配慮義務違反が認められた事例について、見ていきたいと思います。

1. 建設現場での転落事故
H30.9.28広島地裁呉支部判決では、労働者が現場で転落した事案について作業主任者が安全帯の使用状況の監視義務を尽くしていなかったとして会社に安全配慮義務違反を認めました。

2. トラック運転中に腰を痛めた事例
H19.12.4長野地判では、トラック運転手に荷積み、荷下ろしの作業をさせていた場合において、会社が適切な補助具を導入していなかったとして、会社に安全配慮義務違反を認めました。

3. 工場・プレス機での巻き込み事故
R3.11.18札幌地判では、清掃作業を行う場合にはローラーの機械の運転を停止しなければならないとして、停止せずに清掃をさせていた会社の安全配慮義務を認めました。

以下、各裁判例について詳しく見ていきます。

 

建設現場での安全配慮義務違反

事例・事故の内容

平成30年9月28日広島地方裁判所呉支部判決

1. 事故当日の状況及び事故の発生状況等

事故状況別の解説

  • 現場集合後、朝礼は行われず、前日までの作業の流れで解体作業を開始した。
  • 原告は、本件足場の解体作業中に、本件足場第4層から転落した。
  • 本件事故発生時、原告は本件足場第4層、Dは第2層に配置されており、第6層では解体作業中であったが、足場部材の受渡し中ではなかったため、原告が転落する瞬間を現認していた者はいなかった。
  • Cは、自らが不在の間、ベテランで足場の組立て等作業主任者の資格を有する者が、地上で現場を見ながら作業をしてくれると考えていたが、そのような指示は行っていなかった。
  • 原告は、安全帯を着用していたものの、使用はしていなかった。
  • Dは、調査官に対し、Dも安全帯を着用するようには言われたが、使用するよう指示は受けていなかったため、安全帯は使用していなかったと説明した。
  • 原告は、転落後、足を本件足場側に向け、頭をその反対側に向けた状態で倒れていた。
  • 本件事故後に撮影された本件足場の写真では、手すりが崩れた状況は何ら認められない。

→このような事故状況で、安全配慮義務違反は認められるか?

2. 具体的な安全配慮義務違反の有無

① 安全帯の使用等の指導及び監視について
  • 本件足場の地上高は、最上層で11.4m、第4層でも7.64mに及んでおり、転落等の事故が発生した場合に作業員の生命・身体に重篤な結果が生じることは容易に予測し得る。
  • また、本件足場には安全帯等を取り付けることのできる手すりも設置されていたのであるから、被告Y1は、原告を本件解体工事に従事させるに当たり、安全配慮義務の具体的内容として、旧安衛規則上の各措置を講ずべき義務を負っていたものといえる。

原告は、本件事故当日、本件現場において、作業内容やその手順に加え、安全帯の使用についても指導を受けたものと認めるのが相当であるから、被告Y1が、原告に対し、解体の作業内容等を周知し、安全帯を使用させる等の墜落防止措置を講じる義務を怠ったものとは認められない。

→このように判示し、安全帯の使用の指導をしていたこと認め安全帯使用についての安全配慮義務を否定しました。

  • 他方、原告が本件解体工事に従事するのは本件事故当日が初めてであり、原告とCは面識がなかったのであるから、Cは、原告がどのような方法で作業を行うか(原告の作業方法に安全上の問題がないか)を、全く把握していなかったものと解される。
  • それにもかかわらず、Cは、原告に対して直接安全管理上の指示・指導をすることもなく、本件解体工事の作業が始まる前に本件現場を離れたものであって、原告の作業状況や安全帯の使用状況を一切監視していなかったことが認められる。さらに、Cが本件現場を離れた結果、本件事故当時、本件現場には、被告Y1の従業員で足場の組立て等作業主任者の資格を有する者は一人もいない状態となった。

このような事情に照らすと、Cは、足場の組立て等作業主任者に求められる安全帯等の使用状況の監視義務を、作業の開始当初から全く尽くしていなかったものといわざるを得ず、この点において、被告Y1には原告に対する安全配慮義務違反が認められる。

→このように、作業主任者が安全帯などの使用状況を監視していなかったことから、会社に安全配慮義務違反を認めました。

3. 過失相殺の成否について

  1. 原告は、本件事故当日、本件現場において安全帯の使用について指導を受けていたこと
  2. 原告は、本件事故以前にもとび職として足場の設置・解体工事等の高所作業に従事した経験を有し、安全帯を使用するよう指導を受けていたのであって、高所作業の際に安全帯を使用することは常識であるとの認識を有していたこと
  3. 本件足場には手すりが設置されており、原告が安全帯を使用することは極めて容易であったこと が認められる。

それにもかかわらず、原告は、本件事故当時、安全帯を装着していながら本件足場第4層に上がった後もこれを使用しなかったものであり、仮に手すりに取り付けるなどして使用していれば、転落は防ぐことができたといえるから、本件事故の発生については、原告にも少なからぬ過失があったといわざるを得ない。

そして、本件事故に至る経緯、被告Y1及び被告Y2の過失の内容その他一切の事情を考慮すれば、その過失割合は4割と認めるのが相当である。

→このように、安全帯を使用するよう指導を受けていたことを認め原告に4割の過失を認めました。

 

運送・運輸現場での安全配慮義務違反

事例・事故の態様

トラック運転手の腰痛の発症、腰椎間板ヘルニア、腰部脊柱管狭窄の後遺障害の残存について、使用者に安全配慮義務違反があったとして損害賠償責任が認められた事例

裁判所の判断

安全配慮義務違反について

労災_トラック

  • 原告が被告において従事していたトラック運転と荷積み・荷卸しの労働は腰に負担がかかり、その程度が重ければ、椎間板ヘルニア、腰部脊柱管狭窄等の腰部の障害を生じさせる可能性のあることは明らかである。

したがって、被告としては、雇用契約上の安全配慮義務として、原告の従事する労働を原因として腰部に障害を生じさせないようにする注意義務を負っていたといえる。

→会社はトラック運転とに罪、積み下ろしによって労働者の腰に傷害を生じさせないようにする安全配慮義務を負っている

    • 例えば、木曜日の須坂、中野、飯山等への配達では、問屋ごとに種粕(1袋20kgを約500袋)、トップビーン(豆)(1袋30kgで約330袋)、サラダ油や菜種油(1斗缶16.8kgから20kg、500缶から600缶)等の荷物を手作業で各倉庫にまで運ばねばならなかったこと、
    • 南安曇郡での荷卸しでも1箱30kgの生地の箱を約300個、1箱ずつ15m歩いて倉庫まで運ばねばならなかったことが認められる。
    • 通達やその解説では、トラックへの荷積みや荷卸しの際に適切な補助具を導入することが腰痛予防のための人間工学的対策とされているところ、本件証拠上、被告においてはこうした人間工学的な対策がとられたとは認められない。

通達やその解説では、補助具として、昇降作業台、足踏みジャッキ、サスペンション、搬送モノレールなどが例示されているところ、これらの中には導入に過分の手間や費用がかかるものもあ理、これらを導入しないことが直ちに安全配慮義務違反になるとはいえない。

しかしながら、少なくとも原告の主張する台車の導入は容易であったはずであり、この点に関し、被告の安全配慮義務違反を否定することはできない。

→重い荷物を手作業で倉庫まで運ばなければならないにもかかわらず、少なくとも台車の導入すらしていなかったことが安全配慮義務違反となる

  • 平成11年1月7日から7月19日まで原告の運行回数は61回であること、そのうち、1回の運行を開始し終了するまでの時間(1運行あたりの拘束時間)は、40時間超のものが4回、35時間から40時間未満のものが7回、30時間から35時間未満のものが6回、25時間から30時間未満のものが17回、20時間から25時間未満のものが18回、16時間から20時間未満のものが6回、16時間未満のものが3回あった。
  • 勤務と勤務の間の休息時間は、8時間未満のものが27回あり、そのうち3時間未満のものが2回、3時間以上5時間未満のものが8回、5時間以上7時間未満のものが8回あったことが認められる。

こうした労働実態は労働大臣告示を大きく逸脱するものであり、被告に安全配慮義務違反のあることは明らかである。

→長時間の労働実態は安全配慮義務違反に当たると判示した。

このように、裁判所は腰痛予防のための人間工学的な対策が取られていなかったこと、長時間の労働実態から、会社の安全配慮義務違反を認定し、約3971万円の損害賠償請求を認めた。

 

工場(プレス機)での安全配慮義務違反

事例・事故の態様

R3.11.18 札幌地裁の事例:被害者が工場内の機械の清掃業務中、機械のローラーに左手を巻き込まれ負傷した事案

1. 作業内容

会社において、本件機械に付着した糊を取り除くための清掃作業は、毎稼働日の操業後に行われており、その清掃作業の手順は概ね以下のとおりであった。

清掃手順

  1. 本件機械の外側のカネやこれを止めているガムテープを外し、本件機械下部の糊受け等に残っている糊を除去する。
  2. 熱湯注入レバーを使って湯を出し、ローラーを運転させ、上下のゴムローラー、金ローラーを棒たわしで洗い、ある程度糊を洗い流したら湯を止め、ある程度きれいになったら一旦機械を止める。
  3. 上の糊押え、他の糊がついている部分を清掃する。
  4. 再度上記②の清掃をし、機械を止めて汚れがないか確認する。
  5. 最後に横のカネをはめて、ガムテープで止める。
    前記の清掃作業は、4人1組で、手に持ったブラシでローラー等の清掃を行うほか、スイッチやハンドルの側の者が、本件手順②の際に、湯出しやローラーの運転及び停止、糊の付着の程度等に合わせてハンドルを操作してローラーの間隔を調節するなどの操作をして行われていた。

2. 事故状況

被害者は、本件事故当日、操作役を担当し、本件手順②(1回目)は、Bらから特に指示を受けることなく完了したが、本件手順④で2回目に行った本件手順②の作業の際、熱湯注入レバーを上げて湯を出し、ローラーを回転させる操作を行った。

その後、身体のバランスを崩すなどし、咄嗟に左手を上部ローラー部分の上につき、左手がローラーに巻き込まれた(本件事故)。

原告は、Bから、操作役で清掃作業を行う際、熱湯注入レバー等を右手で操作し、巻込み等防止のために左手には必ず柄付きのブラシを把持しておくことを指導されていたが、本件事故直前には、左手にブラシを持つことを失念していた。

3. 会社の安全配慮義務違反について

  1. 前記認定事実によれば、本件機械は、ローラーが人の手の届く位置に露出して設置されているほか、ローラー付近に手で操作する操作部も設けられており、ローラーの回転中に近傍で作業する者の身体の一部が触れるなどして巻き込まれる危険性があるといえ、本件事故後の是正措置のとおり、上部ローラー上面に覆いを設置することが可能であった。
  2. また、本件機械は、ローラー等に付着した糊を取り除くために、毎日の清掃が必要であり、その清掃作業は、ローラーに手の届く位置に複数の作業者が立ち、ローラーの回転中に、その直上付近の熱湯注入レバーやハンドル等の複数の操作部をその時々の糊付着の状態等に合わせて臨機応変に順次操作したり、回転するローラー部分を手に持ったブラシを当てて清掃したりするものであった。

以上によれば、本件機械は、清掃作業に従事する者が操作を誤ったり、操作の際にバランスを崩したりして、身体や衣服の一部等がローラー部分に触れて巻き込まれるなど、労働者に危険を及ぼすおそれのあるものであったというべきである。

したがって、機械の運転中に作業を行わなければならない場合において危険な箇所に覆いを設ける等の措置を講じない限り、その清掃作業を行う際には、機械の運転を停止しなければならないものであったと認められる。

本件機械の形状や清掃作業の内容から、被告において、清掃作業の際に労働者の身体の一部がローラーに巻き込まれる事故の発生は予見可能であったと認められる。

これに反する会社の主張は採用することができず、過去に同様の事故が発生したことがなかったとしても、この判断を左右しない。

したがって、会社は、本件事故当時、本件機械の上部ローラー上面に覆いを設ける等の措置をとらないまま、本件機械のローラーの運転を止めない状態で清掃作業を行わせていたものであるから、上記注意義務及び安全配慮義務に違反したと認められる。

4. 過失相殺の当否及び程度について

  1. 原告が左手をローラーに付いた理由は具体的には明らかではなく、被告又はその従業員の指示に直接起因するとは認め難く、被告における本件機械の清掃手順における個々の作業内容がローラーへの巻込み事故の危険性を高めるようなものであったとは認められない。
  2. また、回転するローラー部分に不用意に手などを近づけることの危険性は明らかであるところ、ローラーの正面に立って作業を行ったり、熱湯注入レバー等のローラー付近の操作部の操作を伴う作業をしたりする際には、労働者側も十分な注意を払う必要があったといえ、原告においても、本件機械の清掃業務(ブラシ役を含む。)には相当期間にわたって従事しており、その危険性を十分認識していたものと認められる。
  3. 以上に加え、本件事故直前の原告の作業において、ブラシを持たない手をローラーに過度に近づけたりする必要性は乏しかったこと、原告は、熱湯注入レバーやスイッチ等を操作する際は右手で行い、左手には巻込み防止のために柄付きブラシを把持するようにも指導されていた。

これを失念していたことからすれば、本件事故が、原告自身の不注意により生じた側面は否定できず、その注意不足の程度も軽微とはいえず、本件事故の発生には原告にも過失が認められるというべきである。

このような理由から、裁判所は被害者の過失割合は3割とした。

5. 考察

このように、使用者は労働者の生命及び身体を危険から保護するよう配慮する義務(安全配慮義務)があり、機械の掃除などの作業を行うときは労働者に危険を及ぼす恐れがある時は機械の運転を停止しなければいけません。

裁判所は事故時に機械上部ローラーに覆いを設けていなかったし、機械の運転を止めずに清掃作業を行わせていたとして、会社に安全配慮義務違反を認めました。

 


以上のように3つの裁判例を見てきましたが、裁判所は個別具体的に検討して、会社の安全配慮義務を認めたり、労働者に過失を認め過失相殺をしたりしています。

労災事故に遭った場合には、会社に安全配慮義務が問えるかどうか個別に判断する必要がありますので、まずは当事務所にご相談ください。

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